桑原聡建築研究所

Satoshi Kuwahara Architectural Studio

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2007年1月のアーカイブ

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2007年1月 [ 1 entry ]

Column vol.2

 独立をして9年目となった今年夏、再びアトリエを移転しました。
 以前のアトリエは事務所業務のCADデータ化によるコンパクト化とそれによるモバイル化で獲得した機動力を最大限に発揮するための拠点として、実験的態度をも持ちつつ整備してきましたが、2年過ごしてみて何かが足りない???となったわけです。
 そこは長時間過ごすには余りにも窮屈で退屈な、いわば「倉庫」のような小さなワンルームマンションの空間でした。それでも、打合せやデスク代わりに使えるカフェや図書館(日本建築学会図書館がすぐ近くにある!)そして目の前のコンビニのコピー(自分のコピー機よりプリントクオリティーが高い!)といった近隣の都市施設を外部資源として組み込んで、徒歩圏にある自宅兼事務所=SOHOと併せることで成立するのではないか。と、考えてみたわけです。しかし、あまりにも合理的に整理し過ぎてしまったために、仕事する場所=アトリエという場所のもつ「楽しさ」や「ゆとり」までをも剥ぎ取り、外部化しようとしてしまったことで、ややバランスが崩れていたように思います。
 今度の新しいアトリエは自宅兼事務所としている、港区芝浦のマンションから、東京湾に架かる「レインボーブリッジ」を渡った対岸の、港区台場にあります。距離にして6キロ、信号がほとんどないので車で10分弱の距離です。
 そこは、台場海浜公園の砂浜に面した低層集合住宅の2階にあります。階下ではイタリアンレストランが営業し、夕方になると炭火グリルの香りがほのかに漂ってきます。
 夏の暑い日でも風が心地よく吹き抜け、周辺には親水性の高い公園が帯状に続く、東京ではもはや珍しい、いながらにして海と自然を感じられる場所です。
 渋滞のない「レインボーブリッジ」を、通勤用に購入したカブリオレで東京湾を吹き抜ける風を受けながら(しかし、大型トラックの吐き出す黒煙には注意しながら!)日に2~3回往復します。その度に気分が「カチッ」と音をたてるように切り変わります。
 舞台装置が「クルッ」と回転して第1幕から第2幕へ移行する、そして第3幕、第4幕へ、連続していくシーンの幕間=結節点を意識する。そうした「ゆとり」までもが「楽しさ」である。というような、歌劇や演劇の舞台を観る時のような楽しさがそこにはあります。そうか、案外こんな仕事外のちょっとした時間の「楽しさ」こそが失いかけていたものだったんだ!と、まさに「目から鱗」のアトリエ移転だったわけです。
 そういえば最初に事務所を開いた麻布台が、その数年前、まだ会社勤めをしていたころ、通りがかりにこんな場所で事務所を持てたらいいなあ、と夢のように漠然と思ったまさにその場所で、独立後面倒を見てくれていたクライアントの一人が使っていないからと貸してくれたものでした。だからどんなに忙しくても事務所に行くのが楽しくて楽しくてしょうがなかった。そんなことも思い出します。

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