桑原聡建築研究所

Satoshi Kuwahara Architectural Studio

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病院プロジェクト

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病院プロジェクト

現在、八幡平市で、回復期リハビリテーション病床100床、一般病床50床、計150床の病院建替え、改修プロジェクトに参画している。

回復期リハビリテーション病棟は、脳卒中などの脳血管障害や骨折などの手術後1〜2ヶ月の急性期を脱しても、まだ医学的・社会的・心理的なサポートが必要な患者に対して、多くの専門職種がチームを組んで集中的なリハビリテーションを実施し、心身ともに回復した状態で自宅や社会へ戻ることを目的とする。
その後自宅や社会にもどっても寝たきりにならないよう、起きる、食べる、歩く、トイレへ行く、お風呂に入るなどの「日常生活動作」ADL(activities of daily living)への積極的な働きかけで改善を図り、家庭復帰を支援していくものである。
つまり、そこで展開される医療行為は、実はくらしへのサポートそのものである。

今から二年前、この病院建替え、改修プロジェクトの相談を院長から受けたときに、僕は病院機能については全くの素人だから、どなたか専門の設計事務所をご紹介すれば私の役目は終わりだろうと考えた。
しかし、回復期リハビリテーションについて学ぶうちに僕のテーマも明確になったこと、また、オークフィールド八幡平が成功するためには最寄りの病院であるこの病院の整備が最重要課題であることを考えると、僕の立ち位置が明確になってきた。なんとしてもこの病院建替え、改修プロジェクトを「隅々まで細やかな目が行き渡ったもの」にしなければならない。
また、その後、膝関節を骨折した娘の一月半にわたる入院介助とその後のリハビリテーションのサポートを経験し、また、一方では高齢者住宅を設計するにあたり、介護・介助について詰めて考えていたこともあって、僕の中では、患者の生き甲斐、達成感、やる気、恐怖心、などなど、医療空間、病床空間、リハビリテーション空間に関わる様々なテーマとアイディアが自然に湧き起こってきた。

現在進行中の病院建替え、改修プロジェクトでは、主に患者が過ごす空間のデザイン、動線、設備、照明など、患者の生活環境を整理し再構築する提案を僕が受け持っている。これまでどちらかと言うと効率重視の傾向が強かった病院建築のなかで、実はまだまだ声が小さい部分だったのではなかろうか。
ナイチンゲールが看護の立場から病棟をレイアウトしたことは知られているが、まさにその原点を今ここで患者の目線から考えたいというのが私の思いだ。
フィンランド、ヘルシンキから西へ約150㎞のトゥルク近郊の森の中に佇む結核病棟、パイミオ・サナトリウム(1933年完成)も、建築家アルヴァ・アアルトが、自分自身の入院経験を基に設計したと言われている。

僕も何度か入院経験があるが、何の工夫もない天井に、配管の水漏れか何かのシミがあって、夜中に目が覚めて見つめていると何かの顔かたちに見えてきたり、向かいのベッドのおじさんが元気ならまだ良いけれど、具合が悪くなったときなど目が合っただけで自分もついつい引き込まれてしまいそうな気分になることもある。かといってカーテンを閉めっぱなしというのは僕には閉鎖的すぎて耐えられない。食事はベッドで食べるなんてもってのほかで、少しでも動けるようになったらテーブルと椅子を使って食べたい。本当は一刻も早く病棟を離れて普通のレストランで食べたいけれど。病室にいるときくらい読書がはかどる時間はない。頼むからそのテレビを消してくれ。下着の色みたいなその地味で無難な色使いは僕にとっては気力を削ぐものにしか見えない。それでも、にこやかに接してくれる看護士さんは本当に天使だあ。と、まあ、これはあくまでも個人的な感想である。

20160708-101.jpg20160708-102.jpg20160708-103.jpg今回僕が提案した4床病室は、従来の中心振り分けのベッド配置と、対面するベッド配置を避けた風車型ベッド配置の両方を組み合わせられるように、すべての病室の内法寸法を統一し、同寸とした上でスイッチ、コンセント類も2ウェイどちらでも対応できるように配慮している。
というのも、設計者は扱う規模が大きくなればなる程、柱芯寸法をきりの良い数字に丸めて面積を統一計算する悪い癖がついていて、特に下層階に駐車場が入っていたりするケースでしばしば起きる話なのだが、部屋内に巨大な柱型が出てきてしまったり、パイプシャフトが出てきてしまったりしてもお構いなしに内部をいじめてしまう。その結果、残念としか言いようのない、イレギュラーな設計が起こりうるのだ。最悪な場合、家具の扉が開かなくなってしまったり、開けようとすると通路の寸法が足りなくなってしまったり。特に病棟の設計では車椅子やベッドそのものを移動するので「納まりが悪い」という建築家のマニアックなこだわりを通り越して悲惨な結果も起こりうる。
逆に住宅設計の設計者からすると、かなり細かな内部寸法の調整をして無駄な出っ張りのない、「納まりの良い」、すっきりした空間を練り上げることが当たり前なのである。だから今回は、図面を受け取った施工者はこの通り芯寸法って?と、顔をしかめることになると思う。

今回こうして熟慮を重ねた結果、何度も図面を修正して作られた、風車型ベッド配置のプランでは、よりベッド空間の個別性が出てくるはずだ。さらに、ベッドが室内通路に対して横向きにできることで側方介助と車椅子への移乗がしやすくなるのもメリットの一つだ。

そして各室に取り付けられた手洗いの洗面台が、雄大な山岳風景を取り込む正面の大ピクチャーウィンドウのど真ん中に配置され、患者が毎度必要とする洗面手洗いの行為が「行なわなければならない」「頑張って行ないたくなる」空間として最高の場所に位置づけられている。

また、閉鎖的になりがちな廊下との間に開口を設けることで、廊下側のベッドにも適切なあかりの確保と、窓側ベッドと並ぶ選択のメリットを与えている。

各階の南面に設けた食堂には、一人で黙々と食事を摂ることもできるカウンター席を設け、そこからは、正面に仰ぐ雄大な山岳風景から元気を貰うことが出来る。気の合う仲間ができた患者や、家族が介助する患者は、大テーブルで食べることができる。患者それぞれの性格やニーズによって居場所を選択できるのだ。

今回も階段はいつもの15センチ×30センチ、お決まりの寸法だ。ワンフロア2回の踊り場休みがあり、屋上までの3フロア、実に楽に上ることができる。リハビリテーションに大いに活用して頂きたいスペースのひとつなのだ。

最後に色使いは元気が湧き出てくるような爽やかで奇麗な色をチョイスして行こうとしている。

ここまでお話してきておわかりの通り、自分でも即入居したい病院を作ること、それが今の僕のミッションと考えているのだ。ただし、その前に出来ることならお世話にならずにいつまでも健康でいたいですけれどね。

このプロジェクトは、昨年末、岩手県八幡平市に完成した「オークフィールド八幡平」から西へ約300メートル。今年3月に着工済。来年、2017年末にグランドオープン予定。
僕は佐藤総合計画と設計チームを組ませて頂いている。施工は戸田建設。
今年四月に行なわれた、素晴らしいキリスト教式起工式の様子も地元八幡平市役所の撮影により公開されている。
https://youtu.be/gBzqUTE_lKQ

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