桑原聡建築研究所

Satoshi Kuwahara Architectural Studio

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2016年9月のアーカイブ

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2016年9月 [ 1 entry ]

この夏のこと

早朝の自転車通勤では秋の風がやや肌寒い季節となりました。
気がつくともう9月が終わろうとしています。
夏休み気分はとっくに過ぎ去り、今は慌ただしい日常に追いかけられています。
それでも時々夏を振り返り次の予定に思いを巡らせたりもしています。

さて、この夏の旅のこと。

日本は島国です。海岸線の総延長は3万3,889kmもあります。
しかし、これを日本の総人口1億2,800万人で割ると、ひとりあたり、264ミリしか無いことになります。
確かに東京近郊の浜や、地方でも有名な浜では場所とりシートを敷いたら足の踏み場が無くなるようなビーチはとても多いですね。
切り立った崖や遊泳に適さないような浜を除くともう残りは僅かとなります。そんな場所はやはりどこも、人、人、人。
だから自然を楽しむというより海に集まる人々を眺めて楽しむ不審な輩も多いように思えて、そんな俗っぽいところが、僕をこれまで海から遠ざけていた理由でした。
なんとなく、海に行く=せっかく自然を求めて行ったのにひとでごった返す、ゴミが溢れて汚い、集まってくる人種が違う、そんなネガティヴなイメージです。

しかし、まだまだ日本の懐の奥深さを感じさせてくれる地域はあります。
そのひとつが、この夏の休暇で訪れた五島列島北部に位置する小値賀島です。

この夏はもともとギリシャ行きを予定していたのですが、娘の学校の行事などがあり、うまく連続した休暇が取れそうになかったので、急遽国内で過ごすことに決め、約2週間の間に一度東京に戻ってくることのできるエリアに変更したのです。

小値賀島は面積僅か12.22 km2の小さな島です。ここには人口2,433人、世帯数1285世帯が暮らしています。かつては一世帯あたり5人を保っていましたが、年々核家族化と高齢化が進み、世帯数はほぼ横ばいだけれども、人口減少が続いています。
現在の高齢化率(65歳以上の人口比)は47パーセントとなり、限界集落一歩手前の状況です。
しかし、一方では子育て家族の転入者が増えていることにより幼年人口が若干上向きになる現象も起きていて、今後いかにしてよそ者を招き入れて子供を増やすか期待されています。
日本一美しい"おもてなし"の村、ともうたわれ、いま、静かに注目さている地域なのです。

20160928-1.JPG20160928-2.JPG20160928-3.JPG20160928-4.JPG僕はどこかに行く時には事前にGoogleマップを駆使して行き先の空撮映像をくまなくチェックします。国内でも海外でもこれはとても役立ちます。
建築の配置模型を見るように想像力を膨らませて地形を見ていきます。
それで、家屋、集落、海岸線、などを俯瞰しながら面白そうだと思ったところには全てチェックマークを入れて行きます。

そこで時々「あれっ?」と、気づくことがあります。
そして、実際に現地に行ってみると「なるほど」と、なることも多いし、また、想像出来なかったような展開が待っていることもあります。
このときの、「想像を超えた展開」がやはり旅の醍醐味です。

この島には美しい石積みの路地が多く残り、独特の集落景観を持続しているのですが、それらが持つ緩やかな円弧が他の地域と違って非常に美しいのです。家屋のアプローチも緩やかにカーブしていて、門がなくても玄関が奥に見え隠れするように配慮されています。

ひとつには石積みのコーナー部は直角よりもアール形状でおさめたほうが支持力が増しますから、こうした積み方は極めて合理的です。それは、南イタリアのアルベロベッロの円筒と円錐を組合せていく成り立ちと同じです。
もう一つ、この島では古来、牛を持っていて、その牛が通るのに直交、直角な街路は適していないため、こうなったのであろう、というのが僕の推測です。
だから、路地の幅は車が入れない寸法、かつ、人一人歩くにはやや広い寸法があてがわれています。
現地を実際に歩いてみるとそんなことに気づき、思いを馳せてひとり感動したりします。

他にも、焼杉の外壁を纏った島の集落の路地を歩くと、何故か窓枠だけが水色だったり緑色だったりクリーム色だったり赤だったり、中には黄色やピンクといった日本離れした色まで使われていたりもします。
着色そのものは比較的新しい年代のものに違いないとは思いますが、世界を旅していると、漁師町には共通してカラフルな色が多いことに気づきます。
漁師さんの使う船、旗、全てに色が溢れています。
家族の無事を遠くから識別できるようにとの説もあります。また、実際に漁師さんとお話しすると、いまみたいにGPSがない頃は魚の群れを見つけるとすぐにその場所を三角法で測定するのだけど、この辺りは漁場が極めて近海にありますから、あの緑の家と赤い家とかで目印にしているとも聞きました。

そんなこんなで僕はこの夏、熱にうなされたようにこれらの島の魅力にとりつかれました。

ところで、この島は半農半漁、自分の食べるものは全て自分の手で作り、獲ることがあたりまえのように継承されています。さらにどうしても自分で作れない人には自分が作ったものを分けてあげるということもあたりまえと考えられているそうです。

しかしながら、ここでふと悲しい現実に気がつきます。僕たち都会の人間は自分では何も口に入れられるモノは作っていません。だから、彼らにとってはあたりまえだけど僕たちにとってはこれまで体験することのなかった彼らの日常を体験させて頂くために交換できるものは、いまのところ「お金」しかありません。
このことこそがツーリズムである、と云うことが出来ますが、一方でそのままだとどこかアウェイ感も強いのです。
結局ツーリストはお金以外なにも残さずに、「帰る場所」があります。

今回僕たちは民泊に2泊、隣接する無人島の野崎島のキャンプ施設に2泊、古民家をリノベーションした家屋に2泊、滞在することで、島暮らしのエッセンスを体験しました。民泊では晩ご飯のおかずのために鯵を自分たちで釣りました。古民家では朝早くに漁港で食材を仕入れ、島のものだけで二泊三日の5食分を料理して食べました。

僕はいま真剣に大好きな建築と大好きなツーリズムを合体させる方法はないだろうかと考えています。だから僕が交換できるお金以外のもの、つまり、「建築家としての能力」を交換できないかなあと考えています。
ひとは皆、様々な能力、技術、技能を持っています。
貨幣を介さずにそれらを暮らしそのものに変えることができれば、というのが、僕が最近思い至った「もう一つのはたらきかた」のイメージです。

これを「旅する(さすらう)建築家」とでも呼びましょうか。

僕は暮らしと建築を構想します。それによって皆さんが暮らしをより豊かに感じられるようになっていただけたら幸せです。
そして、皆さんが僕に与えてくださるすべてのもの、ことを感謝して受け取れるようになりたいと改めて気付かされた夏でした。

小値賀町の問い合わせ先
小値賀アイランドツーリズム 略称 小値賀IT

小値賀町のデータ

主な農産物
ミエンドウ、サヤエンドウ、落花生、コシヒカリ、ブロッコリー、トマト、ミニトマト、メロン、スイカ、サツマイモ、ゴーヤ、アスパラ

主な海産物
イサキ、タチウオ、ブリ、ヒラス、マダイ、アオリイカ、ケンサキイカ、スルメイカ、サワラ、イセエビ、タコ、ハガツオ、シビ、アラ、ヒラメ、アカムツ

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