桑原聡建築研究所

Satoshi Kuwahara Architectural Studio

  • 文字サイズ
  • 小
  • 中
  • 大

home

Column

建築のアーカイブ

Column

建築 [ 41 entry ]

I'm home No.97 掲載のお知らせ

商店建築社から現在発売中の隔月刊「アイムホーム」2019 January No.97 にて
2011年5月に竣工した東中野の住宅-2(K邸アネックス) と、2011年10月に竣工した東中野の住宅改修(K邸) が紹介されています。

竣工からだいぶ時間が経っていますが、今回の編集テーマは「Sustainable Home Planning ライフスタイルの変化を踏まえたプランニング」。副題は「Long Life Confort 年を経ても暮らせる心地よい住まい」とあります。
テーマの通りクライアントご夫妻とのご縁は23年にわたりますが、その間に法人のプロジェクト、個人のプロジェクト合わせて10現場を超えたおつきあいを継続させていただいています。
その間こちらも同じことをし続けているわけではなく常に勉強です。
少しサボって同じことをしようとするとすぐに見破られ叱咤激励をいただいてしまいます。
クライアントご夫妻からスマートハウスについて研究するよう指示をいただいたのは20年以上前になります。
スマートハウス自体は建築的な要素というよりも技術によって立つものであったことから空間の作り込みに取り入れることはありませんでした。
こうして彼らからは常に一歩先をいくことが求められてきましたが、しかし、今もお互いに同じスピードで高齢化に向けて歩んでいるわけです。
そうした中で一歩先の変わらないテーマを見つけそこに向けて最初は無駄かもしれないけれど普遍的に作りこんでおくことを忘れてはならない要素もあるわけです。
編集部からの取材にあたり、そんな思いを持って臨みました。
住宅の紹介記事は40〜49ページに掲載されています。
また、77〜78ページでは設計のポイントをいくつかお話しさせていただいております。
どうぞ書店にてお手にとってご覧いただければ幸いです。

CONFORT No.165 掲載のお知らせ

20181115_confort.jpeg建築資料研究社から現在発売中の月刊誌「CONFORT」2018年12月号 No.165 にてバスルーム・パウダールームについての取材を受け、幾つかのポイントをお話しさせていただきました。138〜139ページで紹介されています。
バスルームをはじめとした水回り空間は、機能上絶対に必要だけれども滞在時間が極めて限られるためにどちらかというとメインディッッシュにはなりにくい場所です。
苦心したスタディーの段階で「これはパーフェクト!解けた!」と思った途端に「トイレを忘れた〜」と凍りつく瞬間が今でも稀にあります。
思い切って生活空間から消去するか、ドーンとメインに据えてとことん使いたいと思ってしまうのが水回り空間なのではないでしょうか。
僕自身は近くに公共施設の綺麗なトイレがあって24時間使えればそれで良いし、お風呂だって近くにスポーツクラブか銭湯や温泉があればもう純粋にとことんくつろぐ空間だけが自分の家としてそこにあればそれで良いと思ってしまいます。
取材では押さえながらお話しさせていただきましたが、同じ限られたミニマムな面積、空間でもグレード感や開放感での差別化を作り出した例を取り上げていただいています。
どうぞ書店にてお手にとってご覧いただければ幸いです。

陰翳礼讃

東京の自宅を引っ越しして約2ヶ月経った。その間に八幡平の家も引っ越ししたので慌ただしく、東京の家を引っ越してもうそんなに経ったのかと思うくらいあっという間だった。
未だダンボールの山が残されていることは変わりない。
断捨離を実行するにはチマチマとやっていたのでは一向に埒があかない。僕にはまとまった時間が必要なようだ。
とはいえ未開封のダンボールの所有者はそのほとんどが浪人中の娘にあるわけだから急かすわけにもいかないというのが実態だ。

20180914.jpeg

引っ越してみて驚いたことがある。
これまでの暮らしでここ数十年間支払い続けてきた電気代がおおよそ3分の1になったことだ。
これは驚きである。
前の住宅は鉄筋コンクリート造の二階建て住宅で築年数約30年。断熱はとても怪しい。何よりも南向きの大開口があることと陸屋根(天井)の輻射が激しく、夏と冬はエアコンがフル稼働となる。しかも動力を使用していたので請求は電灯動力合わせて2本となる。
広さは今よりも25%増しなのに加えて巨大な吹き抜けがあるので負荷は大きいのは当たり前なのだが3倍の開きとなるとなかなかの金額だ。
今のマンションも築年数は同じようなもので断熱は極めて怪しいが、3階建ての1階であり、鬱蒼とした木々に囲われているために直達日射がないということで負荷の変動が少ないことが大きな要因だろう。引っ越して以来エアコンは24時間かけっぱなしなのだが結果は良好だ。
ついでにその前住んでいた港区のタワーマンションの時の履歴もチェックしてみた。
ここは中間階とはいえ角住戸のため外部環境の変動を受けやすい住宅だった。
面積が今よりも25%小さいにもかかわらず電気代はやはり今の3倍だった。家族数がこのころは4人だったこともあるかもしれないけれど、それにしてもその差は大きい。

夏の猛暑が年々酷くなっているのを横目に、陰翳礼讃の時代に突入したなという気がする。南向きよりも北向き。遮るもの一つない眺望よりも落葉の木々に囲まれた環境。ツライチの外観よりも大きな庇に彫りの深い陰影のある外観。建築のセオリー、価値観が大きく変わりだしている。

白金台の集合住宅内覧会一日目

20160719.JPG先週土曜日、白金台の集合住宅の内覧会を行なった。
たくさんの友人、知人、仕事仲間、そしてクライアントの方々に足を運んで頂いた。
様々なご意見を頂戴できるのも本当にありがたいことだ。
こうした場は、僕自身の「今」を伝えるまたとない機会なので、最も大切にしていることなのだ。
今週末土曜日午後、二日目の内覧会を行ないますので、まだ足をお運び頂いていない方は是非ご来場ください。
お待ちしております。

日時
2016年7月23日(土) 13:00〜18:00
住所
港区白金台2-19-2
交通
東京メトロ南北線・都営三田線「白金台」駅 1 番出口徒歩7分
都営浅草線「高輪台」 駅 A2出口徒歩5分
JR・東京メトロ等「目黒」 駅 徒歩14分
当日連絡先
090-2305-7592(桑原) 
090-4076-2798(清水)

物件名
芝白金ホームズ
敷地面積 376.28m²
用途 長屋(3戸)、共同住宅(6戸)
構造 RC造
階数 地下1階、地上3階(屋上にペントハウス)
建築面積 254.34m²
延床面積 443.79m²
意匠設計 桑原聡建築研究所
構造設計 我伊野構造設計室
設備設計 YMO
施工 金澤建設株式会社
FFE 唯アソシエイツ

留意事項
車でお越しの場合は、近くの駐車場をご利用下さい。
スリッパ、手袋等ご用意をお願い致します。
お手洗いはお近くのコンビニ等をご利用ください。
引渡し前につき、傷・汚れには細心の注意をお願い致します。

病院プロジェクト

現在、八幡平市で、回復期リハビリテーション病床100床、一般病床50床、計150床の病院建替え、改修プロジェクトに参画している。

回復期リハビリテーション病棟は、脳卒中などの脳血管障害や骨折などの手術後1〜2ヶ月の急性期を脱しても、まだ医学的・社会的・心理的なサポートが必要な患者に対して、多くの専門職種がチームを組んで集中的なリハビリテーションを実施し、心身ともに回復した状態で自宅や社会へ戻ることを目的とする。
その後自宅や社会にもどっても寝たきりにならないよう、起きる、食べる、歩く、トイレへ行く、お風呂に入るなどの「日常生活動作」ADL(activities of daily living)への積極的な働きかけで改善を図り、家庭復帰を支援していくものである。
つまり、そこで展開される医療行為は、実はくらしへのサポートそのものである。

今から二年前、この病院建替え、改修プロジェクトの相談を院長から受けたときに、僕は病院機能については全くの素人だから、どなたか専門の設計事務所をご紹介すれば私の役目は終わりだろうと考えた。
しかし、回復期リハビリテーションについて学ぶうちに僕のテーマも明確になったこと、また、オークフィールド八幡平が成功するためには最寄りの病院であるこの病院の整備が最重要課題であることを考えると、僕の立ち位置が明確になってきた。なんとしてもこの病院建替え、改修プロジェクトを「隅々まで細やかな目が行き渡ったもの」にしなければならない。
また、その後、膝関節を骨折した娘の一月半にわたる入院介助とその後のリハビリテーションのサポートを経験し、また、一方では高齢者住宅を設計するにあたり、介護・介助について詰めて考えていたこともあって、僕の中では、患者の生き甲斐、達成感、やる気、恐怖心、などなど、医療空間、病床空間、リハビリテーション空間に関わる様々なテーマとアイディアが自然に湧き起こってきた。

現在進行中の病院建替え、改修プロジェクトでは、主に患者が過ごす空間のデザイン、動線、設備、照明など、患者の生活環境を整理し再構築する提案を僕が受け持っている。これまでどちらかと言うと効率重視の傾向が強かった病院建築のなかで、実はまだまだ声が小さい部分だったのではなかろうか。
ナイチンゲールが看護の立場から病棟をレイアウトしたことは知られているが、まさにその原点を今ここで患者の目線から考えたいというのが私の思いだ。
フィンランド、ヘルシンキから西へ約150㎞のトゥルク近郊の森の中に佇む結核病棟、パイミオ・サナトリウム(1933年完成)も、建築家アルヴァ・アアルトが、自分自身の入院経験を基に設計したと言われている。

僕も何度か入院経験があるが、何の工夫もない天井に、配管の水漏れか何かのシミがあって、夜中に目が覚めて見つめていると何かの顔かたちに見えてきたり、向かいのベッドのおじさんが元気ならまだ良いけれど、具合が悪くなったときなど目が合っただけで自分もついつい引き込まれてしまいそうな気分になることもある。かといってカーテンを閉めっぱなしというのは僕には閉鎖的すぎて耐えられない。食事はベッドで食べるなんてもってのほかで、少しでも動けるようになったらテーブルと椅子を使って食べたい。本当は一刻も早く病棟を離れて普通のレストランで食べたいけれど。病室にいるときくらい読書がはかどる時間はない。頼むからそのテレビを消してくれ。下着の色みたいなその地味で無難な色使いは僕にとっては気力を削ぐものにしか見えない。それでも、にこやかに接してくれる看護士さんは本当に天使だあ。と、まあ、これはあくまでも個人的な感想である。

20160708-101.jpg20160708-102.jpg20160708-103.jpg今回僕が提案した4床病室は、従来の中心振り分けのベッド配置と、対面するベッド配置を避けた風車型ベッド配置の両方を組み合わせられるように、すべての病室の内法寸法を統一し、同寸とした上でスイッチ、コンセント類も2ウェイどちらでも対応できるように配慮している。
というのも、設計者は扱う規模が大きくなればなる程、柱芯寸法をきりの良い数字に丸めて面積を統一計算する悪い癖がついていて、特に下層階に駐車場が入っていたりするケースでしばしば起きる話なのだが、部屋内に巨大な柱型が出てきてしまったり、パイプシャフトが出てきてしまったりしてもお構いなしに内部をいじめてしまう。その結果、残念としか言いようのない、イレギュラーな設計が起こりうるのだ。最悪な場合、家具の扉が開かなくなってしまったり、開けようとすると通路の寸法が足りなくなってしまったり。特に病棟の設計では車椅子やベッドそのものを移動するので「納まりが悪い」という建築家のマニアックなこだわりを通り越して悲惨な結果も起こりうる。
逆に住宅設計の設計者からすると、かなり細かな内部寸法の調整をして無駄な出っ張りのない、「納まりの良い」、すっきりした空間を練り上げることが当たり前なのである。だから今回は、図面を受け取った施工者はこの通り芯寸法って?と、顔をしかめることになると思う。

今回こうして熟慮を重ねた結果、何度も図面を修正して作られた、風車型ベッド配置のプランでは、よりベッド空間の個別性が出てくるはずだ。さらに、ベッドが室内通路に対して横向きにできることで側方介助と車椅子への移乗がしやすくなるのもメリットの一つだ。

そして各室に取り付けられた手洗いの洗面台が、雄大な山岳風景を取り込む正面の大ピクチャーウィンドウのど真ん中に配置され、患者が毎度必要とする洗面手洗いの行為が「行なわなければならない」「頑張って行ないたくなる」空間として最高の場所に位置づけられている。

また、閉鎖的になりがちな廊下との間に開口を設けることで、廊下側のベッドにも適切なあかりの確保と、窓側ベッドと並ぶ選択のメリットを与えている。

各階の南面に設けた食堂には、一人で黙々と食事を摂ることもできるカウンター席を設け、そこからは、正面に仰ぐ雄大な山岳風景から元気を貰うことが出来る。気の合う仲間ができた患者や、家族が介助する患者は、大テーブルで食べることができる。患者それぞれの性格やニーズによって居場所を選択できるのだ。

今回も階段はいつもの15センチ×30センチ、お決まりの寸法だ。ワンフロア2回の踊り場休みがあり、屋上までの3フロア、実に楽に上ることができる。リハビリテーションに大いに活用して頂きたいスペースのひとつなのだ。

最後に色使いは元気が湧き出てくるような爽やかで奇麗な色をチョイスして行こうとしている。

ここまでお話してきておわかりの通り、自分でも即入居したい病院を作ること、それが今の僕のミッションと考えているのだ。ただし、その前に出来ることならお世話にならずにいつまでも健康でいたいですけれどね。

このプロジェクトは、昨年末、岩手県八幡平市に完成した「オークフィールド八幡平」から西へ約300メートル。今年3月に着工済。来年、2017年末にグランドオープン予定。
僕は佐藤総合計画と設計チームを組ませて頂いている。施工は戸田建設。
今年四月に行なわれた、素晴らしいキリスト教式起工式の様子も地元八幡平市役所の撮影により公開されている。
https://youtu.be/gBzqUTE_lKQ

今年も一年、楽しい仕事が出来ますように

僕の職業は建築家なのだけど、家具も作るし、あるときはインテリアコーディネーター、そしてまたあるときはデコレーター、はたまたたまにキュレーターにもなる。いまのところ住宅に限りの話だけど。
つまり、ひとさまのライフスタイルを丸ごと作る職業なのだと捉えている。

そのため、日頃からライフスタイル関連商品のリサーチを欠かさない。国内、海外問わず、レストランやショップでふと気になるものを見つけると裏返して刻印をチェック、初めて見るものであればすぐにググってブックマーク。日本での取り扱いを調べておく。すると案外知人の取り扱いだったことを知ることもある。
そして本当に気に入ったものは先ず自分で購入して使ってみる。
そうすると本当に永く使えるものなのか、ただ奇麗なだけのデザインなのかがよくわかる。しかし、ものは使いやすければ良いというものでもない。使いやすくするために取ってつけたようなデザインは一番嫌いだ。永く使えるということはデザインも使い勝手もすべて心地よいものなのだ。ただのディスプレイならそこまでしなくても良い訳だけど、僕はどうもそうした思い切りがない。使うものでも飾るものでも購入する以上はその存在理由が欲しいのだ。
だから、ただのディスプレイだとわかっていても、例えば本を購入するときなど見かけのボリューム感、表紙の格好よさ、そしてその中身の有益さをはかりに掛けて悩みに悩む。もちろんコストパフォーマンスも重要だ。たとえクライアントが中身を見ることがないとわかっていても。しかし、そうしていちいち悩んでいるのは無益なようにも見えるかもしれないし、スタッフからするといいかげんにしてくれ!といいたくなるところだと思うが、実はこれこそが僕にとってものすごく重要なリサーチなのだ。できれば一年365日悩んでいたいくらい幸せなリサーチの時間なのだ。

先日お客様のお宅に伺った際にトイレと洗面に設置したペーパータオルホルダーの具合が悪いと相談があった。ゴミがたくさん出るペーパータオル、実は自分では使わず、僕はハンドタオル派である。よって、こればかりは自分が日頃使っているものをお勧めすることが出来ない。それこそデザインはとても奇麗なのだが、よくよく見てみれば原理的に無理のあるデザインで、ペーパータオルホルダーの必要性能が満たされていないデザインのものだった。
卸元とも相談した結果、彼らとしてもこのように分析的なクレームであればと、対応して頂けることになった。この際だから僕もしばらくの間ペーパータオル派になってテストしてみることにしよう。

僕の職業は建築家である。しかし、実際にはそんなことを楽しんでいる。
あ、全然関係ないけれど、今日は七夕だ。
今日は早く帰って子供たちと一緒に願い事をしよう。
今年も一年、楽しい仕事が出来ますように。

20160707.jpg

ルイスポールセン特別レクチャー

ルイスポールセン特別レクチャー 「フィンランド建築の100年 − アールヌーボーからアアルト、現代まで」

建築家アルヴァ・アアルト(1898-1975)の国、フィンランドからいらしたアアルト建築の研究家でもある建築家、マリアンナ・ヘイキンヘイモ氏が、ヘルシンキの建築の魅力を伝える会ということで、昨晩は六本木のルイスポールセンに寄り道してきた。

20160706.jpg

最近のヘルシンキは、西側に広がるヤトカサーリ地区を始めウォーターフロント地域の再開発ラッシュで、多くの人々が水辺に移り住めるように、もともと港湾地区だった場所を整備している。
さすがに森と湖の国フィンランドというくらい、水辺を巧みに活かしてきた人々だ。その水のあるくらしの楽しみ方を知っている。

また、暗い冬と白夜の夏の大きな対比のあるフィンランドでは、明と暗、それぞれのくらしの楽しみ方を身につけることが必須である。
しかし、それでも冬の暗さと孤独感から心を壊す人々も多い。
最近の建築事例として紹介されていた、カンピ静寂の礼拝堂(2012)
この礼拝堂は、ヘルシンキの中心街にあるショッピングセンター前の広場に、静寂との出会いの場として建てられた。
ここは、実は礼拝などの儀式を行う施設ではなく、人々が心を安らかにすることを手助けするような活動をしている場所なのだそうだ。訪れる人々の話し相手をするために、教会や市の福祉課のスタッフが常駐しているとのこと。

ほかにも、鉄道跡を利用した自転車、歩行者専用道路、バーナ(2012) というのもおもしろい。
もともとアクティブな国民性から移動交通の自転車への転換にはポジティブなのだ。現在、オフィスビルの駐車場は次々と自転車用の駐輪場に作り替えられているのだそうだ。駐輪場に生まれ変わった駐車場にはシャワー設備が設けられ、通勤で流した汗を洗い流すことができるのだ。
冬はどうするの?と思ったのだが、実はフィンランドでは自転車は夏だけの乗り物というわけではない。多くのヘルシンキ市民が、冬でもスパイクタイヤを取付けた自転車を乗り回している。

北欧と言えば社会福祉の国という印象もある。
僕が北欧を最後に巡ったのは十数年前だったかな?
福祉、医療に脚を突っ込み始めている今の僕としては、また行きたくなってきた。
今度は冬に自転車で巡ってみたいな。

あえてバリア

高齢者のための居住環境を考える時に、必ずバリアフリーの概念が下敷きとして理解されるが、医療、福祉、介護の現場ならともかく、こと住宅となるともう少し別の解釈もあるだろう、というのが私の思いだ。あえて安全で積極的なバリアを設ける手法である。

そもそもバリアフリーってなんだろう?
生活の支障となる物理的な障害や、精神的な障壁を取り除くための施策とある。しかし、国交省のパンフレットによると、高齢者・障害者等の移動の円滑化のため、とあり、現実には建物の段差を取り除くことなどのみを示すにとどまるケースが多く見られる。

20160705.jpg18年前に古稀を迎えた私の両親の家を設計した時、ホームエレベーターの設置を望んだ両親を説き伏せて、蹴上15センチ、踏面30センチの緩勾配の階段を6段ごとに踊り場を設けて、螺旋状に4回、階高3.6メートルを24段、自力で登らせる動線を設けることで日常の歩行動作を促す計画とした。
http://www.s-kuwahara.com/works/1998/07/works-89.html
今月88となる父も84の母も、寝室、風呂、洗濯機のある1階とリビング、ダイニング、テレビのある2階の間を1日に何度も往復する。いや、「させられて」いる。
「しなければいけない」からだ。
いざとなればエレベーターを取り付けられるように、階段の中心に四角いヴォイドを設けているのだが、未だその必要はなく、クローゼットとして機能し続けそうだ。

その後、高齢のクライアントや、終の住処として建て替えを希望されているクライアントのために、こうした考え方は常に用いるようになった。
さらに、昨年末に完成したオークフィールド八幡平は、個人住宅ではなく、高齢者福祉施設に位置付けられるサービス付き高齢者住宅なのだが、ここでも同じ考え方を実現させた。
http://www.s-kuwahara.com/works/2015/11/works-828.html
この建物には小さなホームエレベーターが一基設置されてはいるが、大きな荷物を運ぶとき以外利用する人はいない。最高齢の方で90となる入居者の方々だが、皆さんスロープと階段を自力で歩いて別棟のレストランへ行ったり、そこから外出したりしている。

かつて観に行ったことがある、荒川修作とマドリン・ギンズによる「養老天命反転地
http://www.yoro-park.com/facility-map/hantenchi/
これは我々の平衡感覚器そのものに芸術家の意図的な外力がダイレクトに与えられることで、それまで当たり前と思っていた状況が全てあっさりと覆されて、混乱(人によっては吐き気や転倒、怪我なども含む)と格闘しながら作品の中を彷徨うという、それまで誰も考えたことのなかった壮大な作品だ。人の意識というのは実に創造性の賜物である。ほんの僅かな外力によるその変化と反応は、人によっておおきな違いを生むのである。

そこまで芸術的、あるいはアスリート的に追求しなくても、日常生活の中でより自発的に体を動かし、体に備わるセンサーの働きを促す仕掛けは重要である。
というのも、バランスを保つためのセンサーの役割を果たしている、内耳の平衡感覚器、つまり三半規管と耳石器は加齢とともに衰えて行く。この平衡感覚器の衰えは、めまいの原因となり、やがて転倒事故を招く。特に高齢者の転倒事故は致命的なダメージを与えることになりかねないのだ。
転びにくい体を作るために、常日頃からウォーキングやストレッチなどの運動で筋力や柔軟性を高めるのに加えて、バランスを取る力を鍛えるトレーニングを組み込むことが重要なのだ。

しかしながら、食料を得るために山に入り、洗濯をするために川まで歩き、炊事のために薪を拾いに行くことが当たり前の人々からすると、体力維持のためにわざわざ機械を使って運動をする現代の人々の姿は異様な光景だろう。

だから私は住まいの設計をする時、少しだけ意地悪をして空間に仕込んだ「あえてバリア」、ちょっと使いにくいことや回り道を設けることで、我々の知恵と工夫と感覚を呼び覚まし、本来持っていた健全な感覚を衰えさせることなく持続可能なものとすることを重要なことがらと考えているのだ。

1 2 3 4 5 6 Next

Page Top