桑原聡建築研究所

Satoshi Kuwahara Architectural Studio

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動物病院プロジェクト

巣ごもりといえば現在、僕としては初めてとなる動物病院を設計している。ここで扱っている動物はメジャーな犬猫ではなくて「犬猫以外のすべて」。だから小さなものから大きなものまで様々だし、潜水型、水陸両用、空中戦、匍匐前進、ジャンプするものなど、行進の仕方も様々だ。当然、種によっては逃げる逃げる。ちょっとした隙間があれば入り込んでしまうため、大捜索になりかねないという。まさに巣ごもりする隙を与えてはならないということだ。でも、既存の病院を見る限り足元から頭上までものがあふれており、逃げ込む隙間は多そうだ。僕は埃がたまっても空調が逃げても風通しの良い隙間だらけの空間が好きだから、よくよく小動物の気持ちになって設計しなければいけない。もっとも小動物としては人間の手から逃れたいわけだから、僕のような設計者が隙間だらけの空間を作ってくれることを望んでいることだろう。しかし、クライアントのためには動物の気持ちの裏をかかなければいけないということになる。
そして何よりも楽しみにしていることは、ライオンのような大型哺乳類の手当ては麻酔を打ってからガレージを使って野戦病院を彷彿とさせるような治療を行うらしいということ。また絶滅危惧種や天然記念物もやってくるらしい。そのような場が東京のど真ん中にあることがめちゃめちゃ楽しい。巣ごもり中の動物たちのリモート映像を配信すればちょとしたミニ動物園ができそう。子供から大人まで皆喜ぶだろうなあ。そんなワクワクする気持ちを設計に向けて取り組んでいる。
完成は来年秋の終わりくらいの予定。

そういえばBerthold Lubetkin 設計のロンドン動物園のペンギンプール(1933-34)を見に行った時は改修工事の真っ最中だった。ペンギンのいないガランとしたプールを見たのだけど、作品集で見ていたそのプールはペンギンのスケールで見慣れていたものであって、実物のその小ささにとても驚かされた記憶が蘇った。

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巣ごもりに思う

新型コロナ自粛の中、お世話になった方々から連絡をいただき気遣いの言葉を頂戴することがある。飲めない僕は自分から進んで飲み会を企画することはないし、人と常につるんでいないと落ち着かないという性分でもない。事務所には僕を含めて3名在籍しているが出勤時間は各自お任せ。僕は朝の渋滞を避けるために朝5時に起き6時過ぎに家を出て7時前に出社する。この早朝出社は、読書しながらの電車通勤も悪くないと感じていたある日、あまりにも乗らなくなった車のバッテリーが上がり、無残にもコンピューターシステムが誤作動して面倒なことになってしまったことから始めた習慣だ。今それが密を避ける行動として役立っている。事務所では日中のほとんどの時間、僕一人でワークしている。夕方から出社してくるスタッフとは1〜2時間だけ共に過ごし、僕は先に帰宅する。別に介護事業の仕事も持つ彼の席は3メートル離れた風下側の席。残る一人は慢性疾患を持っているので暗黙の了解として自宅で巣ごもり中だ。稼働中の現場や設計打ち合わせには公共交通機関は一切使わず自転車か車で向かう。だからむしろ家に帰ると大学が休校になって春休みから引き続き家に居続ける長女と小学校が休校になった次女が夕食を待っているから僕の中での最も三密な環境は自宅になるわけだ。誰か一人が不注意な行動をとることで三人揃って感染する可能性があることをお互い確認し合うことで予防策としている。だから先ほどのような問い合わせにも普段と全く変わることのない暮らしを送っていることを伝え安心していただく。

ところで僕の中での三密な環境は自宅だと言ったが、帰宅してから寝るまでの数時間は僕の一日で最も大切な時間だ。住まいで重要なのは滞在時間ではなくて滞在の密度だ。三密の密度のことではなくて暮らしに向き合う気持ちの大きさとでも言ったら良いだろうか。僕の場合、帰宅する途上、車に乗ってから家に帰るまでの間、次女の携帯と僕のiPhoneはハンズフリーでずっとつながっている。運転しながら今日のメニューを話し合い、炊飯器のセット、食材の下ごしらえ、今日のデザートやお茶の銘柄まで確認しそれを実行するのは次女の役割だ。そうすることで帰宅してからすぐに調理に取りかかり30分以内で食事タイムとなる。デザートまで含めても約1時間だ。天気がよければテラスで食べる。食後の後片付けと洗濯は長女の役割だ。何でもかんでも食洗機にぶち込んで多少洗い残しがあっても気にしない僕と違って彼女は実に細かな汚れもキレイに洗い上げるからだ。寝るまでの数時間、僕の家族は自分のためだけのことは一切しない。家族がお互いのために自分ができることをする。そんな家族の時間が日々そこにあったことに改めて気づかされたのは意外に新鮮だった。ほんの束の間の時間だがそれらは人生を豊かにしてくれる楽しみとなっている。世の中的にもいま、住宅を作るということにはこれまで以上に関心が高まっているはずだ。リモートワークがたいした準備もなく始まって自宅の不便さに気づいた人は多いと思う。また食事を作る機会が増えキッチンの使い勝手に不満を持った人も多いだろう。またパートナーとの暮らしに新たな心地よさを発見した人もいるだろうし、普段は日中不在だったはずの旦那がそこにいることでものすごいストレスを抱え込んでいる女性とそのことに全く気がつかない男性も多いかもしれない。

昨日の電話は昨年ご自宅にシアターを作って差し上げたクライアントからのものだった。いただいた電話では大変な感謝の様子。すべての劇場がクローズしている今、自宅に劇場以上のクオリティーで映像と音響を楽しめる場があることは贅沢ではあるけれど他の贅沢が一切できない今の時期にあっては何にも代えがたい魅力となった様子。一方、自宅の余っている部屋を何かに使えないかと相談を受け「ジムはどうでしょうか?」と、映像も音響も空調もパーフェクトに作り込んだジムを即答してお勧めしたクライアントさんからは、あの時すぐに提案を受け入れておけばよかった、、と後悔の電話。イタリア製のマシンは現在供給が間に合っておらず今から計画してもすぐには実現できない。

そんなこんなでどんなに過酷な状況、厳しい事態であれ家と家族を中心に物事を考えることは僕たちの人生に正しい答えを導いてくれる。決して会社や世の中のためなどではない。あくまでも身近にある家と家族のためだ。世の中経済活動が落ち込んでいるのだから短期的に売り上げが減るのはどの業界でもやむを得ない。それでも第二波、第三波、あるいは次のウィルスを見据えて様々な巣ごもりのアイディアや暮らし方の提案を発信しそれを基盤に仕事を続けていけるのは喜びである。
また、コミュニティーとか交流という概念がともすれば悪になり替わりそうな状況であるが、そうではない。家と家族のそのすぐ先にコミュニティーがある。自分と家族とその周りにある守るべき小さなコミュニティーだ。

今更のように巣ごもりという言葉が一人歩きしているようにも思えるが、これもまた今更の話ではない。僕たちが家で良い時間を過ごすことこそが本来の姿なのだ。家族があれば家族とともに。独り身であれば悠々自適に。愛玩のペットがあればペットとともに。そしてそんな今が自分たちの家と暮らしかたを見つめなおす最高のチャンスなのだ。

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I'm home. no.106 2020 May(2020年5月16日発売)に連載のお知らせ

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I'm home. no.106 2020 May(2020年5月16日発売)に連載のお知らせです。
連載第7回目は、住まいの中で家族が集まる場所、パブリック空間となるリビング空間について解説しています。どうぞ書店などで実際にお手にとってご覧下さい。

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I'm home. no.106 2020 May(2020年5月16日発売)に連載のお知らせ

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I'm home. no.106 2020 May(2020年5月16日発売)に連載のお知らせです。
連載第7回目は、住まいの中で家族が集まる場所、パブリック空間となるリビング空間について解説しています。どうぞ書店などで実際にお手にとってご覧下さい。

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I'm home. no.105 2020 May(2020年3月16日発売)に連載のお知らせです。

I'm home. no.105 2020 May(2020年3月16日発売)に連載のお知らせです。
連載第6回目は、住まいの外側(パブリック)から住まいの内側(プライベート)へ。空間の抑揚や流れの中に内部空間を組み立て計画するプロセスについて解説しています。どうぞ書店などで実際にお手にとってご覧下さい。

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I'm home. no.105 2020 May(2020年3月16日発売)に連載のお知らせです。

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連載第6回目は、住まいの外側(パブリック)から住まいの内側(プライベート)へ。空間の抑揚や流れの中に内部空間を組み立て計画するプロセスについて解説しています。どうぞ書店などで実際にお手にとってご覧下さい。

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I'm home. no.104 2020 March(2020年1月16日発売)に連載のお知らせです。

I'm home. no.104 2020 March(2020年1月16日発売)に連載のお知らせです。
連載第5回目は土地に建物を配置するときに街と住宅をどのようにつなげていくのか、街や周辺環境との関わりの中で住まいを作り上げていくプロセスについて解説しています。どうぞ書店などで実際にお手にとってご覧下さい。

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I'm home. no.104 2020 March(2020年1月16日発売)に連載のお知らせ

I'm home. no.104 2020 March(2020年1月16日発売)に連載のお知らせです。
連載第5回目は土地に建物を配置するときに街と住宅をどのようにつなげていくのか、街や周辺環境との関わりの中で住まいを作り上げていくプロセスについて解説しています。どうぞ書店などで実際にお手にとってご覧下さい。
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